例のあれの供養みたいなノリの奴(3/4)
このへんからめっちゃ長い。このへん書いてて分割公開しようと思った。
まあ、リレー小説なんて当然途中で止まるリスクを考えるべき遊びで特に止まったことで誰かを責める気とかはないです。
例のあれの供養みたいなノリの奴(3/4)- 「なんだかやる気がでなくてね」
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カウンター席に漆黒のコートを着た剣士が座っている。腰に二本、背中に一本の片手剣を帯びている。肩肘をつき、その中世的な顔立ちはどこか憂いを帯びた表情を浮かべている。
……男性か女性かわからない中世的な顔立ち、前衛アタッカーっぽいのに防御力の低そうなコート、しかも黒い、これ見よがしな二刀流、カウンター席に片肘ついて憂いを帯びた表情――やばい、地雷っぽさが数え役満だ……。
始まりの街によくこういう奴がいて「クッキーください」とか回復アイテムを要求してきたり、無言でパーティ申請してきて組むと何かと命令してきたり、「あ」というメッセージでフレンド申請投げたり、よく死んだりしている。
もちろん、常識と良心があってその上で遊びとしてロールプレイをしている人もそれなりにいるがこのゲームにおいて〝黒コート族〟は最大警戒の対象だ。
……どうするかなー、こういう奴殺すと粘着されたり外部掲示板にスクリーンショット貼られたりしそうなんだよなぁ……。
とはいえPKer(Player Killer)としてこのゲームをプレイしていくと決めた以上は逃げてばかりもいられないか。
元々、別のVRMMOをやっていたが、修羅の国オンランと呼ばれるヴァーチャルクエストを始めたのは思う存分、プレイヤーキルをやるためだ。そのため、スキルや能力の振り分けも完全に対人ビルドだ。そのため同レベル帯に比べて普通にモンスターを狩る性能は低く他のプレイヤーを殺さないとなんだかもったいなさを覚える。
……それにこの街までこれたってことは十分強いはずか。
ここ、ボトロップは最も近いゲーム開始位置の精霊都市から来たとしても、1000時間程度のプレイ時間が必要になる。
このゲームは街以外に安全な場所などなく、基本的にはどこにいようともプレイヤーに襲われるリスクがあり、そんなゲームを何時間もプレイし続けた人間には一定の我慢強さが期待できる。
余暇のわりに娯楽の少ない時代と言われているが、それでもこんな隙あらば人間が殺しに来る世紀末ゲームよりもマシなゲームはいくらでもある、始まりの街には知名度に釣られて始めてしまった人がたまにいるがちょっと離れた場所にいるのは〝わかっている〟人だけだ。
【これから酒場で一人でいる人誘います】
【おっけー、ちょっとしたら入るね】
小声でフレンドと会話して、黒コート族に近付く。
「ちょっといいかな?」
「ん」
黒コートはわずかに視線をこちらに向けて喉から出した声で続きを促す。
……地雷プレイヤーっぽいなぁ!
なんというか隙あらば〝興味ないね〟とか言い出しそうな凄みがある。
「ここ拠点ってことは牛狩り?」
「いや、ゴブリン狙い。あいつら太陽出てる時間しかポップしないし夜はこうしてのんびりしてるわけ」
「ソロ?」
「俺の周囲に誰かいるように見えなきゃそうなんだろうな」
……腹立つなー!普通に一人で狩ってるって言えよ!
話せば話すほど、腹が立つ。すごい、これを〝わかっている〟人がやっているのならかなりのキャラ作りだ。さぞや楽しんでこのゲームをやっているだろうな。
「お、おう。まあ、ゴブリンなら一人でも狩れないことないか。いやー、俺アタッカー型衝動メイジだからソロだと厳しいんだけど、今フレンド誰もインしてなくてさー」
「そうか、大変だな」
いや、大変だなじゃなくてどう考えてもパーティ組まないか、っていう話の流れなんだが。
ひょっとしてこいつは真正なんじゃないかという気持ちが胸の中に広がる。だとしたらかなり気合いの入った真正だ。
「お、ひょっとしてパーティ組むところ?グーッドタイミング。今、牛狩ってたけど丁度解散したところでさー。あ、私タンク型のファイターなんだけど」
入り口から入ってきたごてごてした紅い鎧に黒いマント、そしてベレー帽を被っている見た目が小学生か中学生くらいに見える女性が近付いてくる。背中には巨大な斧を背負っている。髪は明るい緑で高い位置に二つ結んでおり〝如何にも漫画やアニメに出てきそうなな巨大な武器を持ったロリキャラ〟の見た目をしている。
鎧にベレー帽というのはやや違和感のある格好だが物理防御と魔法防御との兼ね合いらしい。
「狩り組むなら一緒にいかない?」
軽くしなをつくって微笑む。
黒コートに話しかける前に会話したフレンドは彼女だ。このゲームのことを色々と教えてくれた先輩である。
このゲームではいつ相手が襲ってくるかわからないので野良でパーティを組むのは嫌われる傾向にある。
それでも以前はパーティは組まないとやってやれないということもありそのリスクを飲むプレイヤーも多かったが、最近はPKing(Player Killing)行為が発覚すると追放される〝秩序系〟と呼ばれるギルドが数多く存在しており大型の秩序系ギルドに所属していないとパーティを組みづらいという状況が発生している。
それでも初期開始位置の一つ、精霊都市の周辺はまだ大型の秩序系も少ないが、同じく初期開始位置の聖典教会の周囲は巨大な秩序系ギルドかその下部組織に所属していないとPKer扱いされるという状況らしい。
……なんか、それでこのゲームが地獄じゃなくなるかと言われると混沌とした地獄がもっと業の深い地獄に変わるだけのような気もするが。
閑話休題。
さておき、そのような状況になりつつあるためせめてもの猿芝居として知らない人を装って「一人がPKerでも残り二人で対応できる」という安心感を与えようという――まあ、猿芝居だ。
その安心感を与えようという姑息な知恵がどの程度聞いているかは知らないが、とりあえずこのように強引にパーティを組ませようとするとそれなりに断り切れずにパーティを組んでくれる。あとは二対一で逃げられないようにすれば狩り終了だ。
……結局、自分も黒コート族と似たようなものなんだよな。
流石にここまで手間をかけたら普通にモンスターを狩っていた方が時間効率はいいような気もするがPKerをやるためにこのゲームをやっているのだから効率は二の次だ。モヒカン夜盗としてヒャッハーと死体に声をかけるためにバーチャルクエストをプレイしている。
「んー……」
しかし、黒コートは立ち上がる素振りを見せず肘をついたままじろじろと、紅い鎧の女性を見ている。
「パス。なんだかやる気がでなくてね」
「しかし、普段だったらもうちょっと粘るのに今回はあっさり引き下がりましたね」
結局、あのあと黒コートとはパーティを組まずにじゃあ二人で狩りをしますといって出て行った。
「馬鹿、あんなのに声かけるな。多分襲っても逃げられるしビルドによっては普通に二人がかりでも狩られるぞ」
「え、そんな強いんですか。あの黒コート。あ、装備品がよほどの高レベル制限とかそういうこと?」
「はー……」
先輩は私は呆れていますよ、という意志をこちらに伝えるためのわざとらしい溜息をついた。
実のところこうやって呆れながら色々と教わるのが楽しくてこのゲームをやっていると部分はある。
「あいつ二刀流装備だっただろうが。ありゃエクストラジョブだよ。基本ジョブのうちらよかかなり強い」
「二刀流って、でも最初の街にもけっこう二刀流の人いましたよね」
「あーほ。死ね馬鹿がー」
どうやらよほど見当違いなことを言ってしまったらしい。
「あー、まあメイジ系だとそのへんの感覚薄くてもしょうがないのかなー。いやよくねぇよ、PKerでやってこうっていうんだからちゃんと外見から得られる情報を最大限取れるようにしておけクソがー」
「うぅ、酷い」
「さておき、まず前提としてこの世界で二刀流ができるのは、盗人<シーフ>系と狂戦士<ベルセルク>の4つのジョブだけ」
先輩は指を四本立てる。
シーフ系とは基本ジョブの盗人<シーフ>と、シーフでレベルを一定以上上げてクエストをこなした場合転職できるエクストラジョブの狩人<ハンター>と探検家<レンジャー>を含めた3のジョブを指す。狂戦士<ベルセルク>は戦士<ファイター>のエクストラジョブだ。
「始まりの街で見かける二刀流はシーフだな。だが、このうちシーフとレンジャーは片手剣カテゴリの武器の二刀流には対応していない、短刀だけだ」
四本立てた指のうち二本をたたむ。
「よってあいつはベルセルクかハンターのどちらかということだ。多分ベルセルクだな。いやまあ、装備扱いじゃなければ別に何本でも剣持てるから格好つけかもしれんけどありゃ多分違うだろ」
先輩が脱力したように首を上に傾けると、ぴょこぴょこと結んだ髪が揺れる。かわいい。
「おい、聞いてる?」
「聞いてます聞いてます」
「まあ、それだけならハイリスクハイリターンってことで狙ってもよかったけど、あれは対人を考えているビルドっぽいしなぁ」
言葉の外側に「お前には分からなかったかも知れないけど私にはわかったぞ」という自慢が透けて見える。もちろん、ただで色々教えて貰ったお礼や、先輩に色々教えて貰うのは好きというのもあって気持ちよく喋れるように相槌を打つ。
「え、見た目からそんなことがわかるんですか?」
「わかるんだよ、見るだけでなく観察すればな。背中の剣はメイン武器で攻撃力重視、右腰上の厚手の曲刀は盾としての運用とサブウェポン。問題は右腰下の装飾付の短刀だ。見た感じあれは魔法防御用兼、対高物理防御用の武器だろう」
「はあ」
「さておき、そんなもんこのへんで狩りをする上で必要ないだろ?このへんの敵って牛とゴブリンとカボチャくらいだし。あのレベルならなおさらだ。それなのに対魔法装備をしているっていうのは対プレイヤー戦を意識してるプレイヤーってことだ。かなり意識高いよ。そう――私のようにな」
魔法防御用のベレー帽をとんとんと指で示す。
……襲う側が対プレイヤーを意識するのは当たり前なのでは。
モンスター狩りをやりながら対プレイヤー戦を意識している上級プレイヤーという話の流れではなかったのか、とはもちろん言わない。
「ちなみにどのへんでついて行けなくなった?」
「あー、右腰下の武器が魔法系っていうのと、この街で狩りをするなら魔法系装備いらないって話ですかね」
「けっこう装備の見た目は素直だからちゃんと見てればそれなりになんとなくわかるよー。まあ、メイジ系じゃそのへん意識してなかったのかもだけど。駄目だねー、ちゃんと隙あらば掲示板とwikiを往復して知識を蓄えなきゃ」
「わー……意識高ーい」
「いやいや、言うてもあの黒コートもかなり意識高いぞ。あいつ前にもこの街で見たことあるけど、AFKって書かれた板持って市場だけ開いて寝てたからな」
AFKとはVRMMOで「ゲーム接続しながら寝ます」を意味するスラングだ。
本来は Away From Keyboard の略語で「席を外します」という意味のVR以前のMMOでのスラングだった。しかし、VRゲームではキーボードを利用しないし、脳と電気信号で動かすので長時間の離席することもできないということもあって、意味が変化した。
……商人<マーチャント>系じゃないと対面じゃないと物売れないとはいえよくこんなゲームで寝る気になるな……。
街の中ではプレイヤーは殺されることがない、故に街の中ならば寝ていてもとくに危険はない。
それでもPKerばかりのゲームで寝たいかと言われると絶対にNoだが。「殺人犯がいる中で寝られるか!俺は部屋で寝させてもらう!」というのは一般的な感覚のはずだ。
「いやー、寝てる間に市場出すの、私も考えたことはあるけどやってる人は初めて見たわ、本当」
「女性アバターでやるのはよりよくないような気がします……」
「しょうがないにゃあ……やめとく」
「それがいいです」
「いや、っていうか私も流石に寝るときはゲームせずにベッドで寝たいし。何かの事情でログアウトできないとかじゃない限り流石に普通に寝るわ」
「ログアウトできない何かの事情ってなんですか……ないですよそんなもの」
「さておき、多分なんかのアイテム集めでここ数日あいつ見るし、今後も会うことあるだろうけど、もう誘わないし街の外で見かけたら逃げること、おけー?」
「やー」
頷いたが、このあとすぐ黒コートと関わることになる。それも敵対という形で。
硬質な音を響かせ斧が急停止する。
先輩の振るった人の丈ほどある斧は、目標を砕く前に片手剣によって完全に止められていた。
「あー、うん、こういうときいつも何て言おうか迷うんだけど……」
黒コートは困ったように空いている左手で頬をかいている。
右手で持つ剣は先輩が両手で持つ斧を止めてぴくりとも動かない。STRパラメータ――筋力の差は明らかだ。
その向うで、バインド呪文から解放された戦士<ファイター>が尻餅をついた姿勢から起き上がり、数歩下がって距離をとる。ソロでここで狩りをできるようなレベルではないのでおそらく相方が死んで街にワープして、帰ろうとしていた最中なのだろう。
まさにTHE被害者といったような、これで襲わなかったらむしろ失礼くらいの状況だったので襲ったら黒コートに邪魔されたというわけだ。
「別にゲームの中で人を殺すのが悪いとかそういうことをいうつもりはないんだ」
「はーん、あんた誰よ」
「通りすがりの狂戦士<ベルセルク>でユーザーネームは溢れかえる孤島<ウォーターアイランド>……かな。別に憶えておかなくてもいいけど」
「へー、そーうっ!」
喋りながら先輩は片手を腰の後ろの方の斧の柄に持ち替え、身体を支点にするように横に斧を滑らせて黒コートを狙う。
今度は鋼の衝撃音もしなかったが、肉を裂く音もしなかった。気がついたら黒コート――ウォーターアイランドと名乗ったか――は1メートルほど後ろに下がっていた。
……ぼんやり見ていたとはいえ、過程が見えなかった。
認識出来たのは、移動する直前の膝を曲げる動作と移動したという結果だけだ。どうやらAGIパラメータ――敏捷性も規格外に高そうだ。
「まあ、だから俺は決して正義とかそういうんじゃないが、目の前で一対二で襲われている人を見るのはあまり気分が良くないし。まあ、同じPKer同士わがままを通しあおうぜ、ってことだ」
……初撃を当てることより寒い台詞を言うのを優先してきた!?
バーチャルクエストにおけるプレイヤー同士の対戦では先に攻撃を当てたほうが圧倒的に有利だ。
前衛職同士の一対一での戦いはなんとかして先に攻撃を当ててその後は足を止めて殴り続けるのが最善手だとされている。
それというのもプレイヤーの攻撃を基本的に攻防の中で回避することはできないからだ。〝プレイヤーに攻略されるために存在する〟モンスターの攻撃は観察すれば避けられるように前動作が存在するが、プレイヤーの攻撃にはそれが存在しない。避けることだけに集中していればなんとか避けられるかもしれないが少なくても攻撃しながら避けることはできない。
もちろん、攻撃を先に当てられ〝このまま殴り合ったら負け〟になったほうは足を止めて殴り合ったりせずになんとか工夫してダメージレースをひっくり返そうとするし、そのための手段が多く議論されているが、それでも基本的に同じ強さなら先に攻撃を当てた方がそのまま勝利する。
故に初撃を如何に当てるか、あるいは如何に初撃を避けて攻撃を当てるか、前衛同士の対決はそこに焦点が置かれる。
そこを初撃を回避したというのに喋るのを優先したということは
……こいつかなりこのゲームを楽しんでるなー!
自分たちがPKerとしてこのゲームを遊ぶことを選んだように、ウォーターアイランドはこういう風に演じて遊ぶことを選んだのだ。
……ならばこちらも……!
「ヒャッハー!邪魔しやがってそのスカした顔を燃やしてやるぜ!」
叫ぶ。
先輩がドン引きの顔を作ったが気にしない。
そうだ、俺は世紀末のモヒカン夜盗としてこの世界を生きていくんだ。こいつが黒コートの英雄なら俺は夜盗だ。だから戦うんだ。
「あー……おうおう、二人に勝てるわけないだろ。今から私たちの経験値の糧にしてやるー」
先輩の台詞に驚いて視線を向けると、先輩は呆れたような笑顔を返した。
あっけに取られていたような顔をしていたウォーターアイランドも面白い、とでもいうように笑顔を浮かべる。
「さて……俺だって簡単に負ける気はないさ」
おそらく、今この三人は分かり合ったんだと、そう思う。ゲームをやっていて最高に楽しくなる瞬間だ。
「お前たち、このゲームのプレイ時間は何時間だ?」
ウォーターアイランドの台詞に僕と先輩は固まる。さっきまでの楽しい気持ちが嘘のように一瞬で消えた。
「聞くなよ……」
「あ、ごめん」
先輩の僕たち二人の感想を代表した台詞にウォーターアイランドは謝る。
「コホン、さておき――――お前達が何時間やっていようとも俺には勝てない。動き出したら俺の世界だ。俺は生まれつきだからな」
いいながらウォーターアイランドは空いている片手で剣を抜きいよいよ二刀流になる。抜いたのは魔法防御用の方の剣だ。
「そうだ。俺は決して負けない」
――――拓郎様やエイプリルスノウならきっと負けないから。
そう黒コート――そういえば中性的な顔立ちで結局男性アバターなのか女性アバターなのかわからない――は確かにそうつぶやいた。
study-●職業と属性●-
えーと、急に色んな用語が出てきてちょっとわからないんですけど。タンクとか狂戦士<ベルセルク>とか衝動メイジとか。 | |
うん、タンクは役割で、狂戦士は職業で、衝動メイジは属性と職業の組み合わせね。 まず、パーティの役割として ・アタッカー:モンスターを倒す役 ・タンク:壁役でモンスターの攻撃を一身に受ける役 ・バファー:仲間を強化したり、敵を弱体化させる役 ・ヒーラー:仲間を回復する役 っていうのがなんとなくあるの。とはいえ、これは別のゲームから持ってきた用語でこのバーチャルクエストだとだいたいのタンクはアタッカーを兼ねてるし、強化もけっこうできる人が多いからみんなこの役割通りってわけでも全然ないんだけど。 | |
なるほどなるほど。じゃあ、ベルセルクとか衝動メイジっていうのは? | |
えっと、まず前提としてこのゲームは属性+職業でキャラクターを強くしていくんだけど雑にいってこんな感じ ■ジョブ ■属性 | |
職業はなんとなくわかったけど、属性がなんだかすごく分かりづらい。 | |
まあうん、この直感的でない謎世界観ももちろんボロクソ叩かれたんだけど。 | |
ひゃー……。 |