例のあれの供養みたいなノリの奴(4/4)

当初の予定では1万字くらいに収まる予定だったとか言っていた人がいる気がする。
さておき、わりとこれで満足した。まあ、行き場をなくしたリレー小説なので引き継ぎたい人は勝手にどうぞ。

例のあれの供養みたいなノリの奴(4/4)- 「にゃーんだ。残念です」

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 ザッ……ザッ……ザッ……
 見渡すかぎり真っ白な砂漠に、一歩ずつ足跡が刻まれていく。
 歩き始めてどのくらいの時間が経ったのだろうか。
 汗が止まらない。
 手持ちの飲水は、もう残り少ない。
 照りつける陽射しの下、それでも私はただひたすら先を目指す。
 ……必ず、〝あの人〟と再会してみせる。
その願いを叶えるまで、私は倒れる訳にはいかない。
 私の名前は、星を見るもの<スターウォッチ>。
 拓郎様と、エイプリルスノウと再会するため、この世界を旅している。


 バーチャルクエストに閉じ込められて、最初に私は始まりの街である精霊都市で拓郎様とエイプリルスノウを探した。でも会えなかった。
 そのあと、精霊都市以外にも初期開始位置があることを知った。この世界には4つの国があり、それぞれ初期開始位置があるのだと。
 きっとそこにいるのだと、次の目的は別の国に行くことになった。
 そのために一人では効率が悪いと思って、自分を受け入れてくれるパーティを探し、対プレイヤーを意識したギルド――――いわゆる戦争系と言われるギルドに所属した。
 本当はプレイヤーさんを襲うのは気が進まなかったし、罪悪感があるけど、それでも誘ってもらえる中で一番強かったからそのギルドを選んだ。とにかく私は必死だった。
 今だからわかるが、おそらく最初は女性だからということで誘ってもらえたのだろう。VRMMOではわずかな動作や言葉使いから中の人の性別が女性かどうかわかるらしい。
「対人戦の基本は2つだ。こっちの方が数が多かったらではとにかく相手よりも先に攻撃をあててその後は足を止めてとにかく攻撃する。相手の方が数が多かったり乱戦になったらとにかく足を止めないで走りながら攻撃をする」
 最初にそう教わった。
 〝相手の攻撃を見てから避ける〟というのは避けることだけに集中できる最初の一撃だけという前提の元、なるべく避ける必要がないように最初の攻撃を当てるか、避ける必要があるのなら当らないことを信じてとにかく動くということだ。
 そしてそれを教わった次の日、実際に乱戦になった。
 私は敏捷性を中心にパラメータを上げていったけど、それでもどこかリアルより遅い身体に苛立ちを感じながらとにかく相手の攻撃に当らないように走りながら片手剣を振り回した。心の中でごめんなさいしながら。
 そして気付いたらほぼ無傷で屍山血河の中に立っていた。
「お前リアルではボクシングの選手かなんかなの……?」
 私の戦いを見ていた仲間からはそんなコメントを頂いた。実際にボクシング仲間達が集まって作ったギルドが最強の戦争系ギルドとして一時期君臨していたことがあるらしい。
 そう、私は強かった。私は見てから相手の攻撃を避けたり防いだりすることができたのだ。
 軍用機レベルのスペックを拓郎様から頂いた私にとっては生まれつきこの速さの世界が当たり前だった。私が走り出したらもう誰もついてこれない。この速さの世界にいられるのは私だけだ。
 そして――――私は調子に乗った。
 
 
 そして冒頭の砂漠に戻る。
 このロンメル砂漠を超えることで隣国、衝動集落群にいくことができる。
 自分の体力パラメータを見る。それは赤く染まり残りわずかなことを示している。このロンメル砂漠は定期的に専用アイテムの飲み物を消費しないとただそれだけで体力が減少する。
 今は水が切れているので暑い思いをしているが水を飲むと何故か涼しくなる。まあ、なんでゲームをやってて暑い思いをしなければいけないんだという話なんだろう。身体はゲームが与える偽物の暑さに反応して汗をかくので冷房を効かせてたりすると下手すればそのまま体調を崩してしまうと聞く。
 この機能は本体設定でオフにできるそうだけど、ログアウトできない私にはオフにすることができない。
 ……夜までは水も体力も持たない。ここから出会う全てのモンスターを攻撃を回避しながら真っ直ぐ進んで砂漠が終わることを信じる!
 そう誓ったその瞬間。暑さで意識が朦朧としつつあった私は足下のサンドワームに気付いておらず、その攻撃を受けて死亡した。
 そして私は経験値を失い、最後に入った街にワープしたのだった。
 
 
 
 この砂漠を越えれば拓郎様やエイプリルスノウに会えるはずだと信じていた私は酷く落胆して、気付いた。
 私は強くなんてなかった。弱かったんだ。
 ステータスやプレイヤースキルの話ではない。
 例えばエイプリルスノウなら、きっと砂漠を越えることができた。私のように動くことができなくても、きっと事前にこの砂漠を越えるのに必要なものはなにか情報を集めてそれを効率的に集めて、そして超えたはずだ。
 例えば、拓郎様だったら私みたいに必死になって視野を狭くしたりせず、飄々とやりたいことをやってそしてなんやかんやで何もかも上手くやるだろう。上手くやるに決ってる。だって拓郎様だもん。
 強くならなければいけない。拓郎様やエイプリルスノウのようにタフに生きなきゃいけない。この世界には拓郎様のくれた強靱な体躯は持ち込めない。だから二人のようにタフに生きなきゃ。
 そうだ、二人のようになろう。拓郎様のように飄々と、エイプリルスノウのように意地を張り、そんな風に振る舞おう。
 ああ――なんで私は戦争系ギルドに所属してるんだろう。なんで謝りながら人を襲って経験値を稼いだりしてるんだろう。拓郎様やエイプリルスノウならそんなことしない。気に入らないことをやったりしないし、やると決めたら謝ったりなんかしない。
 むしろ、目の前で人が襲われてたらそれを守るような気がする。あ、でもどうかな、エイプリルスノウだったら〝でもゲームで人を襲うのは別にルール違反じゃないし怒る資格なんてないかも……〟くらい言い出すかも。いやでも、きっと何か言い訳を見つけてぐちぐち言いながら喜々として守りそうな気がする。うん、やりそう。
 私は所属していたギルドを抜けて、水嶋にあやかりアイランドスノウと名乗ることに決め、自分の中での区切りとして〝美容師のハサミ〟というアイテムで髪を短くした。
 ――ちなみにこのアイテムは髪型を変更するアイテムなので短くするだけでなく長くすることもできる。鋏を頭の上で動かすと坊主がポニーテールになってたりする。一体どんなハサミだ。
 
 
 
 そして砂漠超えに必要なアイテムを集めている途中に襲われている人がいたので、拓郎様やエイプリルスノウならきっとそうするようにその人を守ることにした。
「お前たち、このゲームのプレイ時間は何時間だ?」
 ……拓郎様のように力を抜いて飄々と、エイプリルスノウのように格好良く――うん、多分二人ならこんな風に振る舞う。
「お前達が何時間やっていようとも俺には勝てない。動き出したら俺の世界だ。俺は生まれつきだからな」
 自信ありげな笑みを作る。
 ……うん、今のこれ絶対エイプリルスノウっぽい!エイプリルスノウっぽくできてるよ私!
 そう、二人みたくなるんだ!
「そうだ。俺は決して負けない」
 ……拓郎様やエイプリルスノウならきっと負けないから。
 だから走る。
 今のところ戦闘中断権は私にあるけど、PKerのパーティならなにかあるはずだよね?多分、メイジの方。
 戦闘中断権とは戦闘を強制的に中止することができるか、ということである。わかりやすいのが足の速さだ。プレイヤー操作の影響もそれなりにあるが、どれくらいの速さで走れるかというのはほぼAGI(敏捷性)と装備の重さで決定される。そして相手よりも速く走れるプレイヤーはいつでも戦闘を止めて逃げることができる。つまりその場の誰よりも足の速いプレイヤーは戦闘中断権があるということになる。
 逆にプレイヤーを狩ることを意識してビルドしているプレイヤーは逃がさない手段を持っておく。麻痺やバインド、低速化呪文、高ダメージの遠距離攻撃などだ。
 ……この場合はおそらくあのメイジがバインド系の呪文を覚えてるはず。
 戦争系ギルドに所属していたことで対プレイヤー戦の知識が蓄積されている。
 もしも致命的な呪文が撃たれても対魔法属性のついている短剣で防げるようにメイジを左側に保ったままタンク型ファイターから間合いを取るように走る。
 このまま速さで戦場を支配死続けられれば勝ち。そうでなくても正面から斬り合っても勝てる自信はある。でも――――
 ……バインドされて剣の間合いの外から斧で2撃くらい喰らったら流石に不味い、かな。
「――スウィートリヴェンジ、それにシニスターディヴィジョン」
 スターウォッチが呪文を唱えるとスターウォッチの身体と剣が黒いもやのようなものに包まれる。
 スウィートリヴェンジとシニスターディヴィジョンは精霊属性の強化呪文である。
 スウィートリヴェンジは与えたダメージの一部を自分のライフ回復に変換できる強化を与える呪文で、シニスターディヴィジョンは使用者の精霊属性のレベルに応じた固定値の攻撃力上昇効果を武器に与える呪文である。
 どちらも使用者のINT(賢さ)パラメータを参照しないため、INTを上げるつもりのない前衛職用に用意された呪文である。
 しかし、シニスターディヴィジョンは広く使われているとは言い難い、他に強力な強化呪文はいくらでもあるからだ。この呪文が使われるのは、主に転職直後に限られる。その場合はジョブレベルは低くても精霊属性のレベルは維持されるため、他の元の攻撃力に対して割合で攻撃力を上昇させる呪文よりも上昇値が圧倒的に高くなる。
 ……でも、その固定値の上昇というのが私には都合がよかった。
 例えば攻撃力を1.1倍にする呪文であれば与えるダメージも1.1倍になってそれで終わりだ。
 しかし、シニスターディヴィジョンは例えば攻撃力+500という形で強化を与える。それがどういうことかというと時間あたりの攻撃回数が多ければ多いほど効果が高いということだ。
 例えば斧で一回攻撃するのであれば単に攻撃力+500で終わるが、その間に片手剣で2回攻撃するのであれば単純計算で+1000になる。 そしてスターウォッチは攻撃回数でダメージを稼ぐビルドであり、また左手の装備を防御力重視で選んでいるため割合上昇の効果が低いため、シニスターディヴィジョンを愛用していた。
 敵のメイジが右掌をこちらに向ける。
「ドゥームイ――――」
 ドゥームインエヴィタブルは衝動系のバインド呪文で腕を向けた方向に出る。衝動系によくある味方を巻き込まない設定無し追尾なしの直線形呪文なため、術者の位置取りと狙いが重要になるが、その代わり速さと再使用可能までの時間が短い。
 相手が呪文名を言い終わる前に効果が頭に浮かぶ。
 ……やばりバインド系だったね。あと、大切なのは――
 それが手を向けた方向に出るということだ。
「――ンエヴィタブル」
 メイジが呪文を唱え終わった頃にはエイプリルスノウは向けた腕の内側にいた。
「えっ」
 左手に持つ短刀でメイジの腹を袈裟に斬る。右手の片手剣を振るには距離が近すぎる。
「まず一人」
 つぶやき、肩からメイジに突撃して体制を崩し、そのまま距離が離れたところを自分を抱きしめるように身体に巻いていた両の刃で挟むように斬る。
 メイジの身体が光の粒子になって消える。死んだため直前の街にワープしたのだ。
「AGI,STR特化の精霊系ベルセルクってまさか黒の死神!?」
 かわいい見た目のタンク型ファイターが驚いたようにつぶやく。
 ……あー、そういえば黒の死神とかあだ名ついてたみたいですね。
 さて、なんて返そうか。そうだよー、とか?違うな。うん、違う。もうPKerは引退したんだ?うーん、何か違うし現在進行形でPKingしてるしね?
 もっとこう、拓郎様やエイプリルスノウなら――
「黒の死神はもう死んだ」
 すれ違い様に斬る。
「ここにいるのはただの通りすがりの狂戦士<ベルセルク>だ」
 背後からXの字を描くように斬りつける。それで相手のHPがゼロになり消えたが斬る前に言い終えたのでちゃんと相手は台詞を最後まで聞けたはずだ。
 ……そう、これ!これだ!あの二人ならこういう格好いい台詞で締める!うん、かなりぽい!
 血がつくわけでもないのでまったく意味がないが剣を軽く振ってから鞘に収める。
「さて、終わりか。ひょっとして余計な手出ししちゃったかな」
「あ、いえもう少しでレベル上がるところだったので助かりました!」
 ……だったら私が戦ってるうちに街に帰ればよかったのに、なんて考えちゃうのはちょっとPKerの思考過ぎるかな?
 いけないいけない。助けて貰った隙に逃げるなんてよくないよ。ちょっと周囲の人に毒されてるよ。二人みたく強く生きるって決めたんだから、こういう考え方しちゃ駄目だよ。
「あー、ところでこのへんで狩りしてたってことはいくつかオレンジ持ってないか?持ってるなら買いたいんだが」
「あ、いえ、だったら持っている分お礼に差し上げます!」
「別にお礼のためにやったわけでもないんだが……まあ、くれるっていうならありがたくもらうよ。ありがとう」
 相手がアイテムウインドを開き操作すると、交換画面が出てきた。受け取るアイテムはオレンジ8個、こちらから差し出すアイテムはなし。承諾ボタンを押す。
 ……これで目標としていたアイテムが確保できた。
 飲み水は直前の街で買い込めばいい。このオレンジは大したアイテムでもなくみんな狩りの合間に食べてしまうため流通していないが、実は虫除けの材料になる。砂漠を越える上でバインドを唱えるサンドワームを避けることができれば相当楽になるはずだ。
 ……柑橘類で避けられる虫って羽虫とかだと思うんですけどねー。
 サンドワームは普通に1メートルはある大型のミミズでオレンジで避けられるとは到底思えない。とはいえ、虫属性であれば相手がどれだけ巨体でもそれなりに狙われづらくなるのが虫除けだ。
 ちなみに、ミミズ型モンスターは気持ち悪いだけでなく身体の向きが分かりづらくてサイドアタックやバックアタックが成功させづらいというのも嫌われている。
「さて、じゃあ行くか。二人を捜しに隣国――衝動集落群に」


       ***


 四つある初期開始位置の一つ、聖典教会。この街は他の街の30倍近くのプレイヤーに初期開始位置として選ばれている。
 その理由は大型秩序系ギルド【四月の雪騎士団】とその下部組織の存在により、他の初期開始位置に比べ治安が護られているからである。
「悪いわね。リアルマネートレードみたいな真似させて。多分規約上ギリギリセーフだから少なくても初回は警告で済むと思うんだけど」
 言いながら四月の雪騎士団の団長、エイプリルスノウ――バーチャルクエスト内でもその名前を名乗ることにした――は約束していたアイテムを渡すため交換操作を行う。
「いえ、納得ずくでの取引なので。調査結果はメッセージで送ってあります」
「どうも」
 エイプリルスノウが他プレイヤーを仲介して調査会社に調査させたのは、現実世界での水嶋拓郎とその所有人工知性体ふたつのがどうなっているかだ。
「なるほど。コールドスリープサービスね。本人の承諾ありで現在冷凍中で契約期間はたったの一年と」
 エイプリルスノウは苛立たしげに親指で唇をいじり――自分が不審がられた目で観られているのに気付いた。
「一応言っておくけど、事情を聞くのは止めてよね。そういう約束なんだから」
「あ、はい。大丈夫です,納得してます」
 明らかに納得されていない表情で言われ、エイプリルスノウは気付かれないように嘆息する。
「眠っているはずの人工知性体と私の名前が同じだって?ただの偶然でしょ、あるいは私が被せてるか。冷凍睡眠中はゲームどころか思考すらできないはずなんだから」
 そのあと、口の中でなにか呟いたがそれは誰にも聞き取れなかった。エイプリルスノウは口の中でこう言っていたのだ。
(思考すらできないはずだってのに……本当あの星の技術はどうなってんのよ)
 取引した男は不機嫌そうに髪をいじるエイプリルスノウを前にしばらく気まずそうにしていたが意を決したように口を開いた。
「その、団長は何を考えてるんですか?」
「何って……何が?最近、考えていることなら次の大型バージョンアップでタンク型メイジビルドが弱体化されないか心配してるけど」
「いえ、そうではなく――いえ、それも心配ですけど」
 四月の雪騎士団は騎士団を名乗っているが、その構成員のほとんどはメイジ系の職業である。
 タンク型魔法使い<メイジ>とはタンク型にビルドされたメイジとその上位職である奇跡使い<ソーサラー>と召喚士<サモナー>を指し、これは従来のビルド指向から大きく外れている。タンク型メイジはVIT(体力)とINT(賢さ)を中心に上げる前衛で戦うメイジである。このメイジの特徴はタンクとして相手の攻撃を受ける役とアタッカーとして攻撃する役の二つを同時にこなせることだ。
 無論、戦士<ファイター>系に比べると装備できる防具やスキルの差でタンクとしての能力は落ちる。しかし、通常の後衛メイジに比べると前衛を前に置かない分、射線を確保しなければ使えない直線形の攻撃や前衛を巻き込むおそれのある範囲系の攻撃を気にせず使えるため、アタッカーとしての性能は高い。そうした前衛を気にしないと使えないスキルはそのデメリットこみで調整されているためだ。
 そして、タンクとしての性能はファイター系に比べると劣るという欠点も後衛を配置しないことで解決される。ファイターに劣るといってもファイターと後衛型メイジの組み合わせよりも、タンク型メイジ二人の方が後衛を護る必要もないこともあり総合的に見て死にづらく、さらに火力もタンク型メイジ二人のほうが優れている。
 これまでのパーティが、専門家が集まり前衛と後衛に別れる思想であったならば、タンク型メイジは万能家が集まり全員が同じように動くという思想のビルドということだ。
 さらに必要とするアイテムが同じなためパーティ内で補充し合うことができる。また最初から避けたり防いだりするつもりがないため初見の相手にも安定して機能し、集中力も必要とせず精神的にも継続して戦い続けることができ、相手の初動を見て前衛で攻撃を回避するという勇気や技術が必要ないために誰であっても同じようにビルドすれば同じように活躍出来る。
 タンク型メイジはバーチャルクエストのビルドにおける最適解とまでいわれたビルドであり、それだけに次回のバージョンアップでは弱体化されるのではないかと噂されている。
 このタンク型メイジを考案したのがエイプリルスノウである。
「ちょい弱体化するくらいなら我慢するけど、タンク型メイジのコンセプトが壊れるレベルだとギルド自体が壊れかねないからなぁ。だから早めに勢力拡大したかったけど戦争系の奴らに邪魔されるし」
「そう、それです。団長はこのゲームに秩序をもたらすことにこだわっているようには思えません。むしろ勢力を拡大することばかり考えているよう思えます」
 エイプリルスノウはもう一度、気付かれないように嘆息した。自分は別に秩序をもたらそうなんて傲慢で正直面白いこと一度も考えたことないとここで言えてしまえばどれだけ楽か。
 しかしそれはできない、そういう名目で人を集めて利用してしまっているのだから。
「そんなことないわよ。でなきゃPKK(Player Killer Killer)ギルドなんてわざわざ立ち上げないでしょ」
「すみません。変なことを言いました」
「まあでも、確かに勢力拡大については焦りすぎてるかもね。私はね、このゲームのどこにいても私と四月の雪騎士団の名前が耳に入るようにしたいの。私に会いたいって人はどこにいても私に会えるのが理想ね」
 本当にそれだけなんだけどなぁ、胸中でぼやく。
 本当にただどこにいてもこのギルドの名前が耳に入るようにして、水嶋やスターウォッチと再会したい。本当にそれだけだ。そうでなかったら誰がこんな自分の名前が入った恥ずかしいギルドなんてつくるものか。
 しばらくこのゲームをプレイして、多くの人がPKerに辟易しているのが分かって誰もが殺された苦い思い出があることがわかった。自分も何度も殺された。だからこそ、防衛のためのギルドを作れば人が集まって効率よく経験値が稼げると思った。システム的に大型ギルドのリーダーは様々な恩恵が得られる。
 そして途中からこのゲームに秩序をもたらすという目的を掲げた方が多くの人を集められることに気付いてそうした。タンク型メイジというビルドを考案したというのも宣伝になったらしい。
 そしてやっかいなのはニュース系サイトに四月の雪騎士団の活動が取り上げられたことだ。
 その結果「どうやらあの誰もがクソゲーの評価と共に名前を聞いたことがあるバーチャルクエストがクソゲーじゃなくなりつつあるらしいぞ」という認識が広がった。そして娯楽に飢えた人々はその変化を当事者として迎えたいと考え、四月の雪騎士団を頂点とする秩序系ギルドで活動するために、あるいはPKerとして打倒されるために、多くの人がバーチャルクエストを開始した。最も低い時期に比べると百倍近い新規登録数を記録したとも言われている。
 エイプリルスノウの提唱した〝秩序系〟のギルドはインターネットの大きなうねり、いわゆる祭状態となり、このあたりから主導権はすでにエイプリルスノウの手を離れたといってもいい。
 そうしてエイプリルスノウは気付いたらこの世界でも最大規模のギルドどころか下部に多くのギルドを従えた、秩序系ギルドのリーダーになっていた。
 とはいえ、自分では制御出来なかったとはいえこれはエイプリルスノウの目的のために都合がいい。組織が大きくなればなるほど水嶋やスターウォッチの耳に入りやすくなるのだから。
 だから、どこまでも勢力を伸ばしてやる。そう思う。この世界を覆うまで。
「さて、とはいえこの国で満足する気はないっていうのは私だけでなく総意だと理解してるわ」
「それは、確かにそうです」
「行きましょう、秩序をもたらすために。手始めに隣国、衝動集落群からよ」


       ***


「俺はこのゲーム――――バーチャルクエストが好きだった。そう、とても好きだったんだ」
 暗闇の中で男はつぶやく。
 周囲に立っているプレイヤー達は無言で同意する。どのプレイヤーも長い間このゲームをプレイした高レベルのプレイヤーである。
「俺の愛したバーチャルクエストは殺し殺される世界だった。そこには荒廃があった」
 ――――俺の故郷のみみみ星のような滅びに向かっているという退廃感があった、とは続けなかった。その言葉が通じるのは自分と、あとはこの世界のどこかにいる一人の男だけだ。
 いくつもの地球のゲームをプレイして、そのほとんどが合わなかった。そりゃあそうだ、本来ゲームをプレイする層である地球人とは文化も培ってきた精神性もまるで違う。
 だが、バーチャルクエストだけは違った。ここには故郷と同じような退廃があった。諦めがあった。終わりに向かう息苦しさがあった。
 だから、このゲームを水嶋と一緒にプレイしたかった。
「しかし、俺たちの愛したバーチャルクエストは失われつつある。あの秩序系とかいう連中のせいで変化しつつある」
 このゲームは変わりつつある。活気づきつつあるのを肌で感じる。
 ――そんなもの認められるわけがない。
 もしもこの変化の原因が、自分が水嶋達をゲームに取り込んだことにあるのならば。
 もしも水嶋が退廃的な世界を変えることができるのなら。
(だったらどうして俺たちの故郷でそれをしない!)
 認められるわけがない。認められるわけがあるはずない。退廃的なものが変わるなど。諦めていたものがもう一度前を向くなど。
 もしもそれができるのなら水嶋でなく自分がやっているはずだ。やる気勢だった自分がみみみ星を活気づけていたはずだ。さっさとみみみ星を見捨てた水嶋ではなく、地球を侵略してまでみみみ星に尽くして命までも一度失った自分こそができてなければおかしい。
 だから変化なんて認められない。
「そうだ。変化なんて認められない。このゲームをずっと支え続けたのは誰だ。愛し続けたのは誰だ。秩序系とか言っているあいつらじゃあないだろう」
 水嶋は確かになんでもできる奴だった。へらへら笑いながら、あらゆる技術を吸収して平然と自分の上をいった。地球侵攻すら一人で食い止めた。
 でもそれは――――みみみ星はあいつの力を持ってしてもどうにもならないという前提の中で俺たちは道を違えたんじゃなかったのか、水嶋。
 その前提が違っているだなんて認められない。そうだ、認められないんだ。
 思考がループしている気がする。最近こればかり考えている。認めない。認められない。認められるはずがない。それだけだ。
 だから
「だから、俺たちは俺たちのゲームを取り戻そう。あんな奴らに俺たちのバーチャルクエストを壊されてたまるか。俺たちの手で護るんだ、この世界を」
 そうだ、退廃的なものは退廃的なままでなくちゃ駄目なんだ。だからこの世界を変化から護らなくてはいけない。でなきゃおかしい。間違っている。認められない。
 これから俺たちは秩序系とかいう間違っているギルドとの戦争を始める。ギルドに参加しているというだけで殺されるようになったらきっと誰もがギルドを抜けるだろう。街を出たらすぐ殺されるとなったらこんなゲームすぐやめるだろう。それでいい、これはそういうゲームなんだ。いやなら別のゲームをやればいい。
 古参プレイヤー達は、このゲームを愛し続けたプレイヤー達は俺の提案に乗ってくれた。この世界の変化を拒絶してくれた。わかるか水嶋、これが愛なんだ。お前みたく簡単に故郷を捨てられる人間にはわからないか。
「あいつらはすぐに思い知るだろう。タンク型メイジではSTR特化型狩人<ハンター>には絶対勝てないとな」
 俺はこの世界の変化を拒絶する。その上で、もしも水嶋、お前がこの世界を変えることができるのなら。
 ――どうか、みみみ星を変えてくれ。お願いだ。頼む。あんなでも二人の故郷じゃないか。
「いくぞ。あいつらを潰すために。聖典教会に行くためには衝動集落群を抜けなきゃか」


       ***


「おや、武器作成中ですか?水嶋」
「リアルネームでは呼ばないでね」
「この辺りには私たちしかいませんよ。マジックソナー取ってますし」
「さよけ」
 話している間にも水嶋が鉄を叩く音が響く。どうせどう叩こうとも武器の出来には関係ない。
 だから話ながらでもなんの問題もないし、話しかけられる前は宙にウィンドを表示して色々と読みながら作業していた。
「あ、ひょっとして私用の新しいダガーですか?」
 猫の耳の意匠がついたカチューシャをつけた、黒いゴシック服の少女が首をかしげる。
 ここは衝動集落群にある水嶋の工房で水嶋のフレンドしか入ることはできない。入り口は共有でドアをくぐると各個人の工房に飛ぶために入り口だけはいつも混んでいる。
「いや違うけど。最近お金貯めてるの知ってるでしょ。装備したい格好いいデザインの鎧があったんだけど属性的に僕は作れないし。買おうかと思って」
「にゃーんだ。残念です」
「気になってたんだけど猫の耳をつけたりたまに言葉を猫っぽくするのはしばらく猫やってたからなの?」
「はい、そうですよ。今気付いたんですにゃ?」
 彼女はみみみ星のA.I.だ。普段は猫の中で眠っていたらしいが、このゲームに取り込まれるときに巻き込まれて一緒に閉じ込められたらしい。
 地球侵攻を企てた相手で、彼女のせいでベルトが未完成のまま戦うことになったりと苦戦させられた相手なので文句の一つも言っていい気がするが、忘れられていたりエイプリルスノウに雑に説教されたりとかわいそうな気がしてつい何も言わないでいる。
 あとは自分と同じ24時間繋ぎっぱなしのプレイヤーが隣にいた方が狩りでもなんでも捗るという理由もある。
「あ、もしかして一時期聖典属性レベル上げてたのもそれとなにか関係があるんですか?」
「いやあれは新しい戦術思い付いたんでそのため」
「へー、どんなのです?」
「抜刀術スキルあるじゃん?あの鞘から抜くときの威力を上げるやつ」
「はい、ありますね」
 抜刀術スキルは戦士<ファイター>系の職業と鍛冶<スミス>が取得できることのできる刀用スキルだ。
 効果としては名前の通り、強力な抜刀術を使うことができるのだが――狩りをするときにいちいち鞘に刀を収めることはしないため最初の一回しか効果のない。そもそもすぐ対応できるように街から一歩でも出たら刀を抜いて移動している人がほとんどだ。
 そのため抜刀術スキルは取る価値のないスキルとして扱われている。
「で、それとは別に聖典属性にソードオブピースあるじゃん。光の剣を作るやつ」
「ありましたっけ、そんなの」
「まあ、すぐ効果消えるしまず取るような呪文でもないから憶えてなくて当然かもな。さておき、あれ説明文を読む限り両手剣を作り出すように読めるんだけど実は刃物カテゴリの武器ならなんでもつくれるわけね?」
「あー、わかりました。それが鞘に収まった状態で出てくるから呪文を唱えるたびに抜刀術スキルが使えると。再使用可能時間+詠唱時間に一回抜刀術攻撃ができるということですね」
「そうそう!よくない!?」
「正直に申し上げますと、どう考えても使ったスキルポイントがもったいないだけの、やりたかっただけ系コンボですにゃん」
「そうだけどね。でも格好良くない?」
「……まあ、わかります」
「でも、よく考えたらソードオブピースで出てくる剣の攻撃力ってINT依存だしSP全然足りないから流石に諦めたけど」
「あらら」
 みみみ星のA.I.の少女は残念そうな顔をつくる。言葉のわりにそのコンボは格好いいと思ったのかもしれない。
「っていうかそれレベル上げ始める前に気付きましょうよ」
「たはは……」
「あ、でしたら私がソードオブピース取りましょうか?私INTかなり上げてますし高速詠唱もあるのでチャージ速度も速いですよ。私がガンガン刀作ってそれを水嶋が抜刀するという形で」
「お、マジ?せっかく思い付いたコンボだし諦めるの惜しいなーとは思ってたんだよね」
「ですね。考えてみたらかなりクールなコンボな気がしてきました。見た目も面白格好いい気がしますし。とはいえ聖典属性レベルは今から上げることになりますけど」
「うん、僕も抜刀術スキルのレベル上げとく」
「あ、そしたらできれば新しいダガー作って欲しいにゃん。今のそろそろつらくなってきたので。いつもの魔力上昇に特化してて、SP消費で攻撃力上げられるやつでお願いします」
「あー……これからまたお金すっからかんになるから、材料自分で取ってきたら作るね」
「甲斐性ないですね。まあ、しかたありませんか」
 しばらく無言で剣を叩く音だけが響く。
 最近の水嶋は鉱山に行って材料をとってそれを加工して武器防具にして売るの繰り返しだ。
「あー、にしてもご主人様来ないですねー」
「ん、そだね。一緒に遊ぼうって行ってこの世界に連れてきたんだからそのうち来ると思ってたんだけど」
 少女の目的はあくまでの彼女の所有者に報いることにある。二人が一緒に行動しているのは水嶋がいつかやってくるだろうと予想したためだ。
「エイプリルスノウもわりとすぐ僕を見つけるんじゃないかと思ってたけど。来ないねー」
「う……私あの人苦手です。説教してくるし、言ってることめちゃくちゃだし、すぐ保健所送ろうとしてくるし」
「あー、してたねぇ」
「普通女の子がかわいいねこちゃんを即断即決で保健所に送ろうとします!?どっちかっていうと人生に疲れてねこちゃんとカラオケと甘い物を人生の楽しみにしそうなタイプじゃありませんか!?」
「いやごめん、わかんない」
「あまりにも監視してくるんでそのうちボロだしそうだったから私眠って猫モード入ってましたからね。本当はご主人様から連絡あるまで監視続けようと思ってにゃんですけど」
「うん、現実に戻ったら保健所送ろう」
「やめて!」
 また沈黙が訪れて鉄を打つ音だけが横たわる。
「そういえば水嶋は何を読んでいるんですか?」
 またしても沈黙を破ったのは少女のほうだった。もしかしたら沈黙に耐えられない性格なのかも知れない。
「んー、今度の大型バージョンアップのお知らせと。あとプロデューサーのインタビュー。バージョンアップ中暇だしできれば睡眠そこに合せたいんだよね」
「ああ、わかります。退屈ですよね」
 バージョンアップ中は何もない空間に放り出されることになる。もしも1年待たずにこのサービスが終了したらどうなるんだろうかと心配になる。
「インタビューというのは」
「まあ、色々と。プレイヤーの分析と今後の方針みたいな」
「ふむふむ」
「えー、〝長い間愛されるゲームを作るためにはいくつもの楽しみ方のフックを用意してそしてそれらが衝突しないようにしなければいけない〟そうです」
「ふんふん、それでそれで」
「まあ、それでいくつかの楽しみ方があると。でー、まず〝この世界の住人として役割を演じるプレイヤーだ。それは自らの右腕に闇の力が封じられているという設定をつけるようなプレイヤーのことではなく、現実の自分と違う自分を演じることを楽しむプレイヤーだ〟そうです。
 えー、VRゲームでは従来文学的と評価されたような悲劇的な結末にストレスを感じるプレイヤーが多く、また悪事やあるいは善行ですら強制的にやらされることを嫌う。そしてビデオゲームでは性能だけで武器や防具を選んでいたプレイヤーもVRゲームでは見た目を考慮して選ぶ傾向にある。それは演じている役割の一貫性を損ねるからだそうです」
 強い自分を作るために、憧れている人間のように振る舞うスターウォッチはこの層に分類されるだろう。
「なるほどなるほど、私も性能がよくてもださい格好はしたくないですね。それでその人はどうすると?」
「〝読んでいる人の中にも最近実装されたクエストに対になっているクエストがあるのに気付いている人がいるだろう。例えば、村にいけば山賊から守って欲しいと依頼されるが、山にいけば街を襲うのを手伝って欲しいと依頼されるようなクエストだ。まだ実験的に行っている段階だが演じている役割から外れないでこの世界にいられるようにそのように選ぶ自由を与えていくつもりだ〟そうで。
 あと、装備したくなるような格好いい装備の選択肢が常に複数用意して、この後出てくる効率的なプレイヤーの遊び方と衝突しないよう報酬を定めるとかなんとか」
「なるほどね、次の楽しみ方は?」
「〝人と競うこと、人と争うことを楽しむプレイヤーもいる。もしもこのプレイヤーが闘技場のような場所ではなく、どこであってもプレイヤー同士で競いたいというのであれば取り扱いには最大限の注意が必要だ。貴方方も知っている通り、私がこのゲームを引き継いだときこのゲームは「とてもよくないゲーム」だった。〟
 〝何故ならば、こういった楽しみ方が他の楽しみ方の可能性を潰していたからだ。しかしながらバーチャルクエストの売りの一つはそのPvP要素であることは疑いようがない。また、こうしたプレイヤーによって他の楽しみ方が豊潤になるケースもある〟」
 秩序系ギルドという言葉が生まれるように対応するように戦争系ギルドという言葉が生まれた。しかしながら彼らはその言葉が生まれるずっと前からいわゆる戦争系の活動をしていた。
「それってどんなケース?」
「えー、ちょっと待って読み進める。これかな?〝また、ゲームを最適解探しのパズルとして遊ぶプレイヤーは多い。しかしながら最適解を見つけてしまえばそこにあるのは退屈であり楽しみではあり得ない〟」
 エイプリルスノウは間違いなくここに分類されるプレイヤーだ。彼女は常にどうするのが最適か考えている。
「〝さて、すぐ情報が共有される今の時代、最適解が検索すれば出てくることは少なくない。しかし、ここに対人戦という要素が加わると話は変わってくる。何故ならば人はプログラムよりも複雑で、しかも学習するからだ。・〟
 〝例えばバインド系呪文は多くの場合MOB狩りには役に立たない。しかし、対人戦で逃げる場合は大いに役に立つ。そのため、対人に備えてバインドを取得するかどうかという悩みが生まれる。これが「対人」によって生まれる豊かなゲーム性だ〟」
「なるほど、あまり私と水嶋には関係なさそうなお話ですね」
「まあ、僕らはあんまり対人戦も効率重視みたいなプレイしてないねぇ」
「私は、最初の〝役割を演じようとする〟プレイヤーですかにゃん。あえていうなら、ですけど」
「ん、あと一つ楽しみ方の例があるっぽいね。〝ゲームを通して自己表現しようとする想像力溢れるプレイヤーもいる〟。あ、これ僕っぽい〝彼らは変わったビルドや、スキル間のコンボを好む〟だって」
「なるほど、水嶋ですね」
「僕だね。〝彼らのためには変わった効果を持つスキルや有効に利用することが困難なスキルが必要だ〟だって」
「なるほど、抜刀術スキルとソードオブピースのことですね」
「あはは。さておき、〝これまでは人と争う楽しみ方ばかり強かったが、今度の大型バージョンアップでは他の各楽しみ方を増大させる〟って。楽しみだなー」
「うーん、私はなにやら向うの国ではタンク型メイジとやらが大流行してるみたいでメイジ系が弱くならないか心配です」
 タンク型メイジは周囲に同じようなビルドをしているプレイヤーが多ければ多いほど活躍するビルドだ。そのため、タンク型ビルドが流行っている地域と流行っていない地域がある。しかし、調整されなければいずれはこの世界全土がタンク型メイジで覆われるだろう、と言われている。
「前衛系メイジってことで調整の巻き添え食らいそうで嫌なんですよね。殴りメイジはギリギリのバランスの上に成り立っているんで正直少しでも弱体化したら厳しいです」
 もしもタンク型メイジを考案したのがエイプリルスノウと知ったら少女は「だからあの女は嫌いなんですよ」と叫ぶだろう。
「お、できた」
 水嶋が出来上がった剣を、市場ウインドに放り込む。鍛冶<スミス>は商人<マーチャント>の上位ジョブであるため、アイテムを売るのに対面である必要はない。
「ところでご主人様もこないですしそろそろ私たちも隣国目指したりしてみますにゃん?水嶋もエイプリルスノウやスターウォッチを探したいでしょう」
「んー、なんだかやる気しないしいいやそれに――――」
 水嶋はアイテムウインドから次の鉄鉱石を取り出し加工を始める。
「なんとなく、なんとなくだけどもうすぐこの国にみんなが集まってくる気がするんだ」