エターナってしまった

1年間くらい更新してないので「あー、いかんなー」と思いつつとりあえずmixiあたりに載せたような気がする文章を持ってきて形だけ更新しておくだけしておく。


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カンガルーがぴょんと跳ねそうな空だった。
夕日と落ち葉が敷いた橙のカーペットを歩いているとまるで自分がどこか遠い国のお姫様かのように思えてくる。そういう目で見てみると落ち葉を纏ったベンチは昔写真で見て憧れた埃除けを被ったソファを連想させて、もしかしたらこれはすごい高級品でお姫様が座るのをずっとここで待っていたのかしら、なんて思えてしまう。
このベンチに座ったらロングスカートが汚れるぞ、と頭に警告が走ったが0.2秒でシャットダウン。ここで何年も私が座ることを待っていたベンチを無視して通り過ぎることはお姫様のやることではありません。
ノブレス・オブリージュ、お姫様は目に映る全ての一生懸命なものにその一生懸命さに値する素晴らしいものを与えなくてはいけません。
湿った落ち葉を手でどかして座る空間を作り、そこにお尻をのせてもう一度空に視線を向ける。
キャラメルを溶かしたような秋天と、もうすぐ夜が来ることを主張してるかのように真っ黒な建物。
もし彼がカメラを持ってここにいたら――――きっとこの風景を切り取ったんだろうな、とふと思った。





ハートハードピンチ



はっ!

そこで夢から覚めたような感覚が到来する。
いやいや待てよ私なにが遠い国のお姫様だなにがノブリス・オブリージュだ、それは成人女性の考えることか大丈夫か。
両手でぱんぱんと頬を叩いて落ち着く。頬が熱いのは今叩いたからだけじゃない。
こんな気持ちを彼に話したらなんて言うだろうか、とふと考えたとき前に彼とした会話が脳内に蘇った。

「カメラを持って歩くとさ世界は輝いて見えるんだよ」

大学一年生の学園祭、写真部の展示を案内しながら彼はそう言った、自分は写真を見ていたためにそのとき彼がどんな表情をしていたかはわからないけどきっと得意げな顔をしていただろう。

「違うな、世界はもともとけっこう素晴らしいもので構成されているんだよ。自然はこの地球が出来てからの46億年をかけて洗練されていってるわけだしさ、人工物だってそうさ、いろんな人がみんなの幸せのためにいろんな工夫を凝らしながら作ってきたものなんだから目に入るものが素晴らしくないわけがない」

と、ここまで言ったらさすがに言い過ぎだけどね。自分が言っていることが恥ずかしいことだと思ったのか急いでそう付け足した。

「カメラを持って歩くと当然なにかを撮ろうと思うわけじゃないか。そうやってなにか撮る価値のあるものを探しながら歩くとね、本当の本当に楽しいんだよ」
「あ、ちょっとその気持ち分かる。綺麗な装丁の日記帳と緑のボールペンを机に置いて家を出るとさ、日記に書くこと価値があることを探しながら生活するようになって普段より楽しかった気がする」

もっともその綺麗な装丁の日記帳は最初の2週間と3日分だけ書かれたらあとはずっと引き出しの中で出番を待っているが。いやでも最初の1週間は楽しかったし嘘は言ってまい。大丈夫、嘘はついてない。
私がちょっとした罪悪感と戦ってるのに気付かず彼は同意を得られたのが嬉しいのか喜色満面の顔を作った。彼は本当に嬉しそうに笑うのだ。

「そう、きっとそれ。俺も日記付け始めてみようかな」

そう、そんな彼ならば私のさっきのお姫様だって笑わないだろう。いや、ここでいう"笑わない"は馬鹿にしないという意味であってきっと笑う。楽しそうにきっと笑う。
彼が笑ってくれるのならお姫様をしても悪くない気がする。
世界は素晴らしいもので構成されている。この夕日の美しさは例え合衆国大統領がNOと言ってきたって覆せないくらいの説得力を持っているし、そうとなればこの空全体だって心を打つに決まってる。じゃあその光に覆われたこの公園が素晴らしくないだなんてあり得ないし、逆行で暗く染まった建物だって格好いいじゃないか。
素晴らしいものを素晴らしいと言って何が悪い。
どんな無神論者だってこの光景を見たら世界は神に祝福されていることを認めざるを得ないに決まってる。

いやいやいやいやいや!!

本日二回目の夢からの目覚め。
頭をぶんぶんと振ってメルヘンを吹き飛ばす。犬の散歩をしてるご婦人と目があったので「いえ頭を振り回してますが決しておかしなものじゃないですよ、ちょっと眠気を飛ばしてただけです。待ち合わせ相手早く来ないかなー」というメッセージをこめた笑顔を向けると向こうも愛想笑いを浮かべて会釈して通り過ぎた。
待ち合わせ相手なんていないのだけれど、こういう細かい設定がきっと大切なのだ。神は細部に宿る。
夕日を見る。
ああうん、RGBで表現すると(250,210,40)くらい?
落ち葉を見る。
寒くなり日照時間が短くなると緑色に見える原因であるクロロフィルが分解されて紅く染まるんだっけ?
自分が座ってるベンチを見る。
確か切符や定期券をリサイクルして作ったらしい、循環型社会万歳。
見えるもの一つ一つに遠い国のお姫様とはほど遠いラベルを貼り付けて現実的なものに還していく。
世界が素晴らしいものに見えすぎるのは私がカメラを持って歩いているからでも、日記をまた付け始めたからでもない。私の日記帳は今でも引き出しの中で2週間と4日目の日記が書かれるのを待っている。
ただそう、彼がいるとそれだけの話が私の中で世界を素晴らしくしている。
なにかが彼との間にあったわけではない、ただ同じ大学の人間としてなんとなく新入生歓迎会で出会って話して。講義のときとか軽い会釈をして。他に誰も知り合いがいなければ隣に座ってちょっと話して。そんなことを繰り返してそのうち一緒に学園祭を回ったり、示し合わせて同じ講義を取ったり、それだけだ。
それなのにいつのまにかどこかでなにかが暴走して何を見ても彼にその出来事をどう伝えようか、これを彼に話したら面白いんじゃないか、そんな風になってしまった。
これまで築き上げてきた友情という言葉を気恥ずかしくて使えないとか本音で話さないことは人間関係を円滑に作る上でしょうがないだとかそういう価値観が嵐に吹かれるように全て壊されていっているのを感じる。
これはピンチだ。私のハートは今未曾有の危機を迎えている。世界の素晴らしさに私のハートはメルヘン色に染め上げられてしまう
この気持ちは恋なの?あるいはいずれ恋にかわるものなの?自問する。
今は多分私の人生で一番多くを学び、そして変わっていってる大切な時期だ。
一生のうち一番大切な時期を一緒に過ごした相手が一番好きに決まってる。だからきっと彼ほど好きなれる相手はこれからあらわれないかもしれない。

だーかーらー!!!

また頭がお姫様を始めようとしたのでベンチの背もたれにヘッドバッドを決めて現実に帰還する。
健康のためにジョギングしてる老紳士に不審者を見る目で見られたので「いやー、今眠くてうとうとしてつい頭を背もたれにぶつけてしまいましたよ頭突きしたよに見えましたかはははそんな馬鹿なことするはずないでしょう」という笑顔を向けると向こうも愛想笑いを返してくれた。
本音を言うとこの気持ちを恋になんかしたくない。
今が楽しいのだ。今の自分を20年かけて作ってきたのだ。生活も自分もそんな一気に変えたくない。自分の変化が怖い。メルヘンさんになっていく自分が怖いし、彼との関係が変化して今と違うものになってしまうのが怖い。
そんな私の恐怖を無視してハートはどんどん勝手に変わっていく。暇さえあれば彼のことを考えようとする。



神様お願いです、この恋になるかもしれない気持ちをかなえてくださいとは言いません。
ただRGBでいうと(250,210,40)の空を返してください。
ただの化学反応で色が変わる落ち葉を返してください。
切符や定期のリサイクルで作られるベンチを返してください。

もう自分の暴走を止められそうにないのです。
私のハートはピンチなのです。


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あとがき
音楽を聴いてなんか文章でっち上げよう、みたいな企画だった気がする。
1時間くらいで書いた文章をどこからともなくサルベージしてくるの、1時間使ってなにか新しいの書けよ、って気がする。